建築や製造業など多岐にわたる分野で活躍する3Dプリンターですが、近年にかけて最先端の医療研究分野への応用が進んできています。2024年5月現在のニュースでは、京都大学医学部付属病院にて3Dプリンターで作った組織を使い、切れた末梢神経の再生を確認できたようです。(参照:
今回は、バイオ3Dプリンターの仕組みをわかりやすく解説し、その驚きの可能性と未来展望について迫ります。実際に執筆された研究論文も交えながらまとめたので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
1.バイオ3Dプリンターとは
1-1)従来の3Dプリンターとの違い
従来の3Dプリンターとバイオ3Dプリンターでは、「素材」と「応用分野」が大きく異なります。
従来の3Dプリンターが樹脂や金属などの無機物を使用するのに対し、バイオ3Dプリンターは細胞やバイオマテリアルといった有機物を素材として使用します。また、通常の3Dプリンターが工業製品の生産や建築モデルの作成などに利用されているのに対し、バイオ3Dプリンターは生体に近い立体的な組織や臓器を形成し、再生医療や創薬などの分野で活用されています。
その他にも細かな違いはありますが、一言で説明すると
バイオ3Dプリンター=生体組織を形成可能な医療分野で活用されている3Dプリンター
と、言えそうですね。
1-2)バイオプリンティングとは
バイオプリンティングとは、3Dプリンティングをもとに生体組織や臓器を形成する革命的な技術のことを指します。バイオプリンティングの基本手順を簡潔にまとめると以下の通りです。
デジタルモデルを作成する
デジタルモデルをもとに、バイオインクの選定と調合を行う
バイオプリンタにバイオインクをセットし、プリンティングを開始する
必要に応じて、架橋処理や表面処理を行う
材料の違いはありますが、基本手順は3Dプリンターとそこまで違いはなく思えますね。ですが、プリンティング方法は使う材料の種類や印刷する組織の複雑さに応じて異なります。
プリンティング方法については、次の「2.バイオ3Dプリンターの仕組み」にて、解説します。
2.バイオ3Dプリンターの仕組み
バイオ3Dプリンターにおいて、よく用いられるプリンティング手法が「積層法」です。積層法とはその名の通り、材料を積み重ねることで3Dモデルを作成する手法ですが、生体材料を使った積層法(以下、生体積層法と表記)では、ディスペンサーや光、熱、化学反応など様々な方法でバイオインクを積層します。今回はその中でも代表的な3つの生体積層法を取り上げました。
2-1)押出法
押出法は、粘性のある材料をノズルから押し出し、三次元構造を形成する技術です。従来の3Dプリンターにおいても多く使用されている手法の一つですが、バイオ3Dプリンターでは、生きた細胞やバイオインクをノズルから噴射し、層状に積み重ねることで組織や臓器を構築します。
価格が安価であることや造形速度が速い点で優れている一方で、他の手法に比べ造形精度が低い傾向にあります。皮膚や骨などの作製において押出法が採用されており、全体のバイオプリンターを閉める割合も高いことから最も一般的なバイオ3Dプリンターと言えそうです。
<メリット>
価格が安価
造形速度が速い
<デメリット>
他の手法と比べて、造形精度が低い
2-2)光造形法
光造形法は、光照射によって樹脂を硬化させる技術を用いた手法です。具体的には、光硬化性樹脂と呼ばれる材料にレーザー光や紫外線などの光を照射することで、化学反応を起こして樹脂を固体化させ、三次元構造を形成します。他のバイオ3Dプリンターに比べ、装置や材料の価格が高いことや使用する材料が限られてしまう面があるものの、高い造形精度でのプリントが可能です。そのため、複雑な構造である血管網の研究などへの応用が進んできています。
<メリット>
高い造形精度でプリント可能
<デメリット>
装置や材料が高価
使用できる材料が限られてしまう
2-3)インクジェット法
バイオ3Dプリンターの中でも今、特に注目されているのがインクジェット法です。微小なノズルから細胞や生体材料をインクのように噴射し、積層していくことで構造物を印刷します。微小なノズルのため細胞レベルでの造形が得意であり、高精度かつ高速なプリントが可能です。使用できる材料も幅広く、材料が比較的安価であることも従来のバイオ3Dプリンターにはないメリットのようです。デメリットとしては細胞へのダメージが挙げられますが、克服するための様々な研究が進められており、今後ますます活躍の幅が広がることが期待されています。
<メリット>
高精度かつ高速でプリント可能
使用できる材料が幅多い
材料が安価
<デメリット>
細胞へダメージが生じる可能性あり
3.バイオ3Dプリンターを用いた研究論文
「3D bioprinting of tissues and organs」
「3D bioprinting of tissues and organs」は2020年8月に刊行の論文誌「scientific reports」に掲載された論文です。3Dバイオプリンティングの原理、様々な技術、および組織・臓器の3Dプリントに関する応用例について概説しており、3Dバイオプリンティングの可能性を示唆した内容になっています。
「Three-dimensional bioprinting of thick vascularized tissues」
出典:PNAS
「Three-dimensional bioprinting of thick vascularized tissues」は2016年3月に刊行の論文誌「PNAS」に掲載された論文です。3Dバイオプリンティングを用いて厚みのある血管化組織を構築する方法について論じています。血管化組織の構築は、再生医療や医薬品開発において重要な課題とされており、本論文では細胞やバイオインク、バイオ3Dプリンターの設計の最適化を記した内容となっています。
4.バイオ3Dプリンターの将来性
バイオ3Dプリンターは様々な分野への応用が期待されており、既に臨床研究も進んでいる可能性を秘めた医療テクノロジーです。ここでは、バイオ3Dプリンターへ期待されていることや現状の課題点についてまとめていきます。
4-1)バイオ3Dプリンターに期待されていること
まず、バイオ3Dプリンターへの最も大きな期待として「臓器移植研究の推進」が挙げられます。人体の組織や臓器には個人個人で違いがあり、その違いによって治療の効果は異なると考えられています。ですが、バイオ3Dプリンターで患者の細胞をもとに皮膚や骨、臓器をプリントできれば、より患者の状態を再現した研究を進めることができます。また、臨床試験をクリアし、プリントした臓器をそのまま患者へ移植できるようになれば、移植待ちの患者も少なくなり、世界中のドナー問題の解消に繋がるかもしれません。
また、バイオ3Dプリンターの応用は創薬の分野でも活躍が見込まれています。薬剤の作用や副作用を事前にテストするために臓器や組織を3Dプリントし、より患者の状態に近い条件下での検証を目指し、応用が進められています。その他にも化粧品や食料などへの活躍も期待されており、大きな注目を集めるバイオテクノロジーと言えそうです。
4-2)バイオ3Dプリンター実用に向けた課題
このように、期待の高いバイオ3Dプリンターですが、実用に向けて克服すべき課題がいくつかあり、まだ発展途上の技術でもあります。まず、実際の臓器と同じ機能を持たせるために細胞の機能面を考慮しなくてはいけません。2024年現在では臓器を形作ることはできていますが、実際の臓器には機能面で未だ追いついていないのが実情です。また、バイオプリンティングに対しての倫理的な問題も議論されています。
夢の詰まったテクノロジーだからこそ、一般の医療現場に浸透するまでのハードルは高いですが、様々な分野での応用が期待できる点で将来性は十分に高いと言えそうです。
5.バイオ3Dプリンターの製品紹介
米国や欧州が先導してきたバイオプリンティング業界ですが、現在は中国をはじめとしたアジア圏でも注目を集めています。日本国内でも世界初の角膜組織のバイオプリンティングに成功するなど技術力を武器に力を入れており、今まさにイノベーションの真っただ中と言えそうです。今回は、数あるバイオ3Dプリンターメーカーの中から3社抜粋してご紹介します。
5-1)CYFUSE(サイフューズ)
CYFUSE(サイフューズ)は世界初の立体的な組織・臓器製造技術を持つバイオ3Dプリンターメーカーです。細胞だけで3D構造体を作製する独自の技術を持ち、研究者向けに販売されています。代表的な製品である「regenova」は微細なステンレス針にスフェロイドを積み重ねることで立体的な組織を作製する仕組みとなっており、作製した神経や血管を用いた治療による臨床開発も進んでいるようです。
5-2)RICOH(リコー)
RICOH(リコー)はバイオ3Dプリンターの販売はまだであるもの、強みであるインクジェット技術を生かして研究開発に力を入れています。特に細胞に優しいインクジェットの開発に成功しており、高精度かつ高速なプリンターへの応用を進めているようです。
5-3)CELLINK(セルインク)
CELLINK(セルインク)はスウェーデン発のバイオ3Dプリンターメーカーです。高精度かつ汎用性の高いプリンターの「BIO X™」や携帯性に優れた小型のプリンター「INKREDIBLE+™」など、様々な特徴を持った製品を開発しています。
6.まとめ
今回は、バイオ3Dプリンターの仕組みから研究内容について解説しました。
記事の内容をまとめると、以下の通りです。
バイオ3Dプリンター=生体組織を作製可能な医療分野で活用される3Dプリンター
バイオプリンティングの方法は様々で、「押出法」「光造形法」「インクジェット法」が代表的である
再生医療分野における研究で使用されており、臓器移植をはじめ創薬や化粧品などへの応用も期待されている
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