こんにちは。
日々、灌流装置の開発を行い、いつかは「SF映画に出てくるような瓶の中で臓器をずっと培養できるような技術ができないかなぁ」、と真面目に考えている技術者の佐野です。
みなさんは、
「なぜ、臓器は体の外に出してくると生きないのか?」
と思ったことはありませんか?
臓器を生体外で、「生かす」「作る」ことは、再生医療を始め臓器研究の究極の目標の一つだと思っています。
そのためには、臓器を長期間生体外で活かさなければいけない、長期灌流というものが必須になり、臓器を活かすバイオリアクターというものが必要となります。
そちらは以前の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
長期間灌流しようとするといろいろ問題にあたりますが、その一つが、灌流液をどのようにして臓器全体に行き渡らせるかです。今回は、この問題について解説します。
目次
臓器にも重力がかかる
体の外では、臓器に「まんべんなく」行き渡らせることが難しい
血行が悪いときは・・・
研究
当初の目的
まとめ
臓器にも重力がかかる
ヒトでも、長期間寝たきりの人は、褥瘡(じょくそう)といって床ずれが生じてしまいますよね。
体の外に出しててきた臓器にも同じことが言えます。
もし、この記事を読んでいる人で、何かしらの臓器を取り出したことがある、もしくは、お肉屋さんでレバーの切っていないものを見たことのある方なら、イメージできると思いますが、臓器は、基本的に柔らかく、平面に置くと、ベチャっと広がってしまいます。そして、置かれた底面は、臓器全体の重みがかかっている状態になります。
そうなると、重みのかかった臓器の下の部分には、血液は到達しづらくなり、いわゆる虚血状態となってしまいます。
体の外では、臓器に「まんべんなく」行き渡らせることが難しい
難しく言いましたが、要は、体の外に出してきた臓器全体に血液をまんべんなく巡らせることは意外にも難しいのです。
実際の生体外臓器培養では、血液が行かなくなった部分は壊死していき、毛細血管が破れて「漏れ」という形で現れます。
いくら動脈から灌流液を流しても、漏れてしまい、静脈から戻ってこなくなってしまうのです。
血行が悪いときは・・・
血行が悪いとき、筋肉でいうとコリが生じたとき(肩こりなど)皆さんはどうしますか?
マッサージしますよね。
ということで、体の外に取り出してきた臓器にもマッサージをしてみたら、血行状態が改善されるのでは?
と思って研究を始めました。
研究
研究は、ラットの小腸とラットの大腿骨格筋を灌流して、何もしないものと、マッサージするものの2群で比較しました。
マッサージは加圧で行い、密閉した空間に臓器を入れ、そこにガスを間欠的に注入することで、灌流しながら加圧できる系を作成しました。
そうして、比べてみると、小腸、筋肉共に間欠的に加圧した群で明らかに灌流状態が改善していました。
小腸では、希釈血液を流してみましたが、何もしないと重力で小腸の下の方に血液が行ってしまい、上の部分はほとんど血液が環流されないのですが、間欠的加圧を行うと、しっかりと上に来るようになりました。
筋肉では、何もしないと灌流開始2-3日辺りから、静脈からの戻りが少なくなる(≒静脈以外のところから漏れが発生している)のですが、間欠的に加圧すると、14日の間、静脈からの戻りを得ることに成功しました。
そのほかにも、組織の活性(ATP)を測定したり、切片で組織像を見てみたりしましたが、間欠的に加圧した筋肉の方が、良い結果となりました。
当初の目的
実は、当初は、生体外で臓器を灌流するときに発生していた「漏れ」の問題を解決するために、生体内のように圧力をかければいいのでは?と思い、最初は一定の圧をかけましたが、変化ありませんでした。そこで、間欠的に加圧してみては?と思い、装置開発と共に研究を行った経緯です。
まとめ
今回の内容をまとめますと
長期灌流では、漏れ、灌流液をどのようにして全体に行き渡らせるかが問題となる
灌流状態をよくするために、間欠的に加圧した
その結果、小腸、骨格筋において灌流状態が良くなった
となります。
長期灌流を行おうとすれば、行きつくであろう「灌流液をどう全体に行き渡らせるか」「漏れ」の問題に対して、一つのソリューションとなれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今回の記事の内容を読んで、「こんな灌流やってみたい」というアイデアはありませんか?
弊社では、ラインナップや技術の組合せで最適な灌流系の提案を行っています。
登場した製品
バイオリアクター
細胞からオルガノイド 組織 臓器まで
バイオリアクターの構築を提案します。
密閉したチャンバーへガスを注入し、加圧環境を実現します。
間欠加圧モードと定常加圧モードが切り替えられます。
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